目次
特定商取引法は、消費者を守るために定められた法律です。訪問販売や電話勧誘販売などのほかにECサイトも特定商取引法の対象です。事業者はルールを守らなければなりません。
法人と個人で対応すべき内容が異なり、違反すると懲役や罰金・行政処分を下される可能性があるため、決まりをしっかりと理解する必要があります。
今回は特定商取引法の基本内容や、違反した場合の罰則、表記方法を解説。個人事業主が連絡先を公表することなくECサイトを運営する方法についても紹介しています。ECサイト事業に参入を検討している方は、ぜひご参考にしてみてください。
特定商取引法(特商法)とは
特定商取引法とは、消費者の利益を守るために特定の事業者に定められている法律です。正式名称を「特定商取引に関する法律」といいます。
該当する事業者が有する販売方法の特殊性により、発生しやすいトラブルを防ぐために「事業者が守るべきルール」と「消費者を守るルール」が定められています。特定商取引を公正に行い、消費者の損害を防止することが特定商取引法の目的です。
通信販売であるECサイトを運営する事業者も対象です。特定商取引法に違反すると、業務停止命令や業務禁止命令などの行政処分の対象になります。ルールを把握して、トラブルにならないよう注意しましょう。
ECサイトは特定商取引法の対象
特定商取引法の対象となる取引は、下記の7種類があります。ECサイトは2番の「通信販売」に該当する取引類型です。
- 訪問販売
- 通信販売
- 電話勧誘販売
- 連鎖販売取引
- 業務提供誘引販売取引
- 特定継続的役務提供
- 訪問購入
消費者庁|あなたの契約、大丈夫?~知って安心、契約トラブル防止・解決のために~
通信販売とは、雑誌やテレビ、インターネットなどで広告を出し、通信手段で申し込みを受ける取引を指す言葉です。ECサイトはインターネットを見た消費者が、インターネットを通信手段として購入の申し込みをするため、通信販売に該当し、特定商取引法の対象となります。
ECサイトに対する特定商取引法の規制
特定商取引法は、「行政規制」と「民事ルール」の2つに分かれています。すべての種類の取引に対して定められている規制と、ECサイトを含んだ通信販売において定められている規制があります。詳しく見ていきましょう。
行政規制
行政規制は、消費者への適正な情報提供などを目的とする規制です。事業者が特定商取引法の行政規制に違反すると「業務改善の指示」や「業務停止命令」、「業務禁止命令」の処分を受けるため注意してください。
それぞれの取引類型に応じて、行政規制では以下のように規制されています。
特定商取引法の行政規制
規制 | 内容 |
---|---|
氏名等の明示の義務付け | 事業者は勧誘を開始する前に、事業者名や勧誘目的であることを消費者に告げる義務がある。 |
不当な勧誘行為の禁止 |
不当な勧誘行為に当てはまるのは以下のとおり。
|
広告規制 | 広告は重要事項を表示する義務がある。加えて、虚偽や誇大な広告を禁止している。 |
書面交付義務 | 契約の締結時などは、重要事項が記載された書面を交付する義務がある。 |
参照:特定商取引法ガイド|特定商取引法とは
さらに上記以外にも、ECサイトを含む通信販売においては以下の規制があります。
特定商取引法の通信販売に対する行政規制
- 広告の表示(法第11条)
- 誇大広告等の禁止(法第12条)
- 未承諾者に対する電子メール広告の提供の禁止(法第12条の3、法第12条の4)
- 未承諾者に対するファクシミリ広告の提供の禁止(法第12条の5)
- 特定申込みを受ける際の表示(法第12条の6)
- 前払式通信販売の承諾等の通知(法第13条)
- 解除妨害のための不実告知の禁止(法第13条の2)
- 契約解除に伴う債務不履行の禁止(法第14条)
- 顧客の意に反して契約の申込みをさせようとする行為の禁止(法第14条)
- 行政処分・罰則
参照:特定商取引法ガイド|通信販売
各項目の詳細は、消費者庁の以下のページをご確認ください。
特定商取引法ガイド|通信販売(【行政規制】1〜10)
通信販売は、面と向かって相互に意思表示をすることなく広告を通じて商品が提供されます。したがって、広告の説明不足や不明確な記載はトラブルを招きかねません。そのため「広告の表示」に対してルールが定められています。特定商取引法の通信販売に対する行政規制の項目1である「広告の表示」では、記載すべき内容と省略できる内容が説明されています。
民事ルール
民事ルールは、消費者の利益を守り、事業者と消費者間のトラブルを防止するために定められています。具体的な民事ルールは以下のとおりです。
特定商取引法の民事ルール
規制 | 内容 |
---|---|
クーリング・オフ |
正式な書類(申し込み書類など)を受け取ってから以下の期間内であれば、契約の締結後でも無条件で消費者は取引の解約ができる。
|
意思表示の取消し |
事業者が以下の行為を行った結果、消費者が誤って契約をした場合、消費者は契約の取り消しができる。
|
損害賠償等の額の制限 | 消費者の都合で中途解約する場合、事業者の請求可能な損害賠償の上限が定められている。 |
参照:特定商取引法ガイド|通信販売
また、以下の民事ルールがECサイトを含む通信販売に適用されます。
特定商取引法の通信販売に対する民事ルール
- 11.契約の申込みの撤回又は契約の解除(法第15条の3)
- 12.契約の申込みの意思表示の取消し(法第15条の4)
- 13.事業者の行為の差止請求(法第58条の19)
参照:特定商取引法ガイド|通信販売
各項目の詳細は、消費者庁の以下のページをご確認ください。
特定商取引法ガイド|特定商取引法とは(【民事ルール】11〜12)
契約解除の際に発生する送料が特約になる場合や、消費者に負担してもらう場合もチェックしておきましょう。
特定商取引法の表示義務を違反した場合の罰則
特定商取引法の表示義務を違反した場合、懲役や罰金などの罰則や業務禁止命令などの行政処分を下される可能性があります。
特定商取引法に違反して行政処分を受けると、処分内容や事業者名が報道されたり、SNSなどで拡散されたりする可能性がありますのでご注意ください。
ECサイト上の特定商取引法に基づく表記の書き方
ECサイトを運営する際は、特定商取引法に基づき以下のような表記をする必要があります。「特定商取引法に基づく表記」ページを作成し、正確な情報を消費者にわかりやすく伝えてください。
【ECサイト上の特定商取引法に基づく表記例】
表示項目 | 表示例 |
---|---|
会社名(商号) | 株式会社●●●●● |
代表者(通信販売業務責任者) | ●● ●● |
所在地 |
〒●●●-●●● 東京都渋谷区●●● |
連絡先 |
電話番号 ●●●-●●●●-●●●● メールアドレス ●●●●●@●●● (営業時間:平日8時~17時) |
販売価格 |
|
支払い方法・時期 |
お支払い回数は一括のみ カード認証完了後、発送手続きいたします。 入金確認後、●営業日以内に発送いたします。 |
送料 |
●●運輸 全国一律●●●円。●●●円以上の商品購入で無料 ※希望者のみラッピング●●●円で承ります。 |
引き渡し(お届け)時期 | 入金確認後もしくはカード決済後、●営業日以内に発送いたします。 |
返品・交換・キャンセル |
万が一商品の破損などがあった場合、ご注文内容と異なる場合は送料弊社負担でお取替えいたします。○○○@○○.comまでご連絡ください。 商品不良もしくはご注文と異なる場合、●●●●●@●●● へご連絡ください。 弊社にて送料負担の上、商品をお取替えいたします。 お客様都合による返品はお受けいたしかねますので、ご了承ください。 |
以下にて各項目の書き方のポイントを詳しく解説します。
事業者の氏名(名称)、住所、電話番号
特定商取引法に基づく表記として、以下の情報を記載する必要があります。
- 事業者の氏名(名称)
- 住所
- 電話番号
法人の場合、社名と「代表者の氏名」もしくは「通信販売業務の責任者の氏名」の記載が必要です。個人の場合、「戸籍上の氏名」もしくは「商業登記簿に記載された商号」を記載してください。
【ポイント】
- 住所は番地の省略が認められていない。法人であれば登記簿上の住所を、個人であれば現在活動している住所を記載
- レンタルオフィスの住所の表記は認められている
電子メールで広告をする場合は、電話番号のほかにメールアドレスの記載が必要です。消費者からの信頼を得るには、電話の対応可能時間を明記するとよいでしょう。
商品の販売価格(役務の対価)、送料
消費者が負担すべき金銭の内容や金額は、すべて記載してください。
具体的には以下のような費用を記載します。
- 販売価格
- 送料
- 手数料
- ラッピング代
- カタログ代
送料の記載がない場合は、販売価格に含まれます。販売価格に送料が含まれない場合は、明確な送料の記載が必要です。
【ポイント】
- 税込金額を明示する必要がある
- 発送先によって送料が異なる場合は、表でまとめてわかりやすく表記してもよい
- スペース上送料をすべて記載するのが難しい場合は、送料の最低金額・平均金額・最高金額を明示するか、別ページのリンクで表してもよい
代金の支払い方法、支払い時期
代金の支払い方法と支払い時期の記載も必須です。支払い方法は、具体的に以下が挙げられます。
- 銀行振込
- クレジット
- 代金引換
- 現地決済
一部の支払い方法のみの記載は認められていません。支払い時期は、前払いや後払いを記載し、支払い期限ある場合も明示してください。
【ポイント】
- 対応できる支払い方法はすべて記載が必要。省略は不可
- 支払い方法によって支払い時期が異なる場合は明記する必要あり
代金の支払い方法によって消費者の支払い時期が異なるため、いつまでに支払いを済ませておく必要があるのかを記載しましょう。
商品の引き渡し(お届け)時期
特定商取引法に基づく表記をするには、消費者に商品が届く時期を明示する必要があります。表記の例は以下のとおりです。
- 代金の入金確認完了後、●日以内に発送
- クレジットカード利用承認完了後、●日以内に発送
- 商品到着後、●日以内に代金をお振込ください
先払いと後払いのどちらでも、消費者の手元に商品が届く時期が明確になっていれば問題ありません。
【ポイント】
- 商品がいつ消費者の元に届くかを記載する必要あり
- 「●日以内」や「●月●日までに」以外にも、「直ちに」や「即時」も速やかに引き渡すことを意味するため、表記可能
- 「●日以内に入金が確認できない場合、注文は自動的にキャンセルになる」などの支払い期限がある場合は、有効期限を記載
在庫がない商品の注文を受けた際、「入荷次第」の表記は消費者が商品を受け取れる時期が明確でないため認められません。
返品、交換、キャンセルについて
ECサイトでの返品、交換、キャンセルについては、特約がある場合、特約の内容を明示する義務があります。特約の内容は以下のとおりです。
- 返品の可否
- 期間などの返品の条件
- 返品に関わる送料負担の有無
特約がない場合は、「特定商取引法第15条の3」で通信販売における売買契約の解除などについて定められている規定に則ります。規定の内容は、商品の引き渡しや特定の権利を消費者が受けた日から8日以内の場合、申込みの撤回や解除ができるとされています。ただし、送料は消費者の負担です。
ECサイトはクーリング・オフの規定がありませんが、消費者は特定商取引法によって申し込みの撤回や解除ができます。
【ポイント】
- 特約がある場合は、広告と最終確認画面に明記しておく必要があることに注意
- 特約がない場合は、「特定商取引法第15条の3」により、消費者は返品や交換・キャンセルが可能
「返品についてはその都度御相談に応じます」などは、返品の可否が明確でないため認められません。特約がある場合は、内容を明記してください。
副業の方や自宅の場合は表記を非表示にすることも可能
副業の方や実際に活動している場所が自宅の場合は、所在地や連絡先を非表示にすることが可能です。
特定商取引法では、トラブルや消費者からの問い合わせに「遅滞なく」対応できることを条件に、事業者の住所と電話番号の表示の省略が認められています。
自社のネットショップをかんたんに立ち上げられるASPカートのサービスの中には、BASEのように事業者の所在地と連絡先を非公開にできる会社があります。
※BASEは、区分が「個人」のショップオーナー様のみ利用可能。
設定画面でチェックをつけるだけで、手軽に所在地や連絡先を非表示にできるので、個人情報の公開に抵抗がある方も安心です。
所在地や連絡先を非表示にする時の注意点は以下のとおりです。
- 非公開設定は区分が個人の場合のみ
- 返品対応などの際に消費者から求められた場合は、所在地と連絡先を公表する必要あり
個人事業者の声を反映させたBASEのサービスを使えば、ECサイトを安全に運営できます。個人情報の公開を理由にECの参入に足踏みしていた方は、利用してみてください。
BASE|事業者の所在地と連絡先を、非公開にできるようになりました
【2022年6月】最終確認画面での表示義務も
特定商取引法は2012年以降、繰り返し改正が行われています。2022年6月からは最終確認画面での表示が義務付けられました。最終確認画面で表示が必要な項目は以下のとおりです。
【最終確認画面での表示が義務づけられた契約事項】
- 分量
- 販売価格・対価
- 支払の時期・方法
- 引渡・提供時期
- 申込みの撤回、解除に関すること
- 申込期間(期限のある場合)
参照:消費者庁|貴社カートシステムでの改正法への対応について
上記について、事業者は消費者に誤解を与えないよう、わかりやすい表示を心がけましょう。たとえば販売価格や対価については、複数の商品が購入された場合、支払総額を表示してください。定期購入を契約している場合は、2回目以降の代金も表示します。
また、申込みの撤回や解除については、消費者が見つけやすい場所に表示することが重要です。誤った認識で申し込みをした消費者は、取消権を行使できる場合があります。
まとめ
特定商取引法は、トラブルが発生しやすい取引から消費者を守るための法律です。ECサイトも特定商取引法の対象のため、自社サイトで商品やサービスを提供する場合は、特定商取引法の理解が必須です。
違反した場合は、罰金や行政処分を受ける可能性があるため、頻繁に行われる改正情報を常に確認しておきましょう。