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近年の著しいデジタル化により、人々の価値観が変わり、購買行動も大きく変容しています。こうした変化・変容に対応するため、中間業者を挟まずに顧客と直接取引をする、D2Cというビジネスモデルが盛り上がりを見せています。
そこで今回は、D2Cに関してビジネスモデルの概要とその特徴、導入のメリット・注意点などを解説。リピーターの創出やコアなファン作りに課題を抱えている企業の方はぜひ参考にしてみてください。
D2Cとは
D2Cとは、Direct to Consumerの略で、直訳すると「製造者が顧客に直接、商品を販売する方式」という意味になります。
似たような言葉にB2Cがありますが、両者の違いは「企業が直接、販売するかどうか」です。B2Cは「企業と消費者の取り引き全般」を表します。そのため、企業と消費者の間に小売業者が入ってもそれはB2Cとみなされます。一方、D2Cは企業と消費者の間に第三者を挟まない「直接取り引き」を意味します。具体的にはECサイトや工場直売などがD2Cと言えます。
なお、小売業者などの第三者を介さないため、販売経路の構築が容易です。たとえばECサイトの場合は、1週間程度でD2Cの構築ができます。
D2Cのビジネスモデル
従来の販売モデルでは商品企画やマーケティング活動、商品製造は自社で行い、仕入れ・販売は卸・小売業者やEC事業者に委託していました。しかし、D2Cでは商品企画から仕入れ・販売はもちろん、配送にいたるまで、製品が消費者の手に渡るまでのすべての工程を自社で対応します。
サプライチェーンの各工程を委託せずに自社で担当することにより、自社が伝えたいイメージをダイレクトに届けやすく、顧客の声を吸い上げやすいといったメリットがあります。
D2Cが向いている業種・業態
D2Cは、ECサイトでの販売がメインになるため、ECサイトでの販売に向いている製品を取り扱う業種・業態向きの販売方式です。たとえば次のような業種・業態がD2Cに向いています。
- 健康食品・サプリメント
- 化粧品
- アパレル
- PC・カメラ・オーディオ
- インナー・下着
さまざまな業種があるなかでも特にアパレルはブランドイメージや世界観が重視される業種です。従来の販売モデルのように消費者の手に渡るまでの間で第三者が入ってしまうと、ブランドイメージや世界観を保つのは難しくなります。一方、D2Cであれば、自社の教育が行き届いた従業員によって消費者に直接説明ができるため、ブランドイメージ・世界観を維持しやすくなるでしょう。
また、差別化が難しい健康食品・化粧品においては、他社との違いを明確に説明できることが独自性の創出に繋がります。消費者の悩みが深い商材でもあるため、D2Cにより企業側から直接詳しい説明を提供することで信頼感を勝ち取れれば、独自の立ち位置の確立も可能です。
D2Cの特徴
D2Cのビジネスモデルには次のような特徴があります。
- 顧客に直接販売する
- 顧客と直接コミュニケーションを取る
- LTV(顧客生涯価値)の重要性が高い
- コンテンツマーケティングの重要性が高い
- 独自の世界観を打ち出す必要がある
- 主なターゲットはミレニアル世代やZ世代
最大の特徴は、顧客と直接コミュニケーションを取ることにより、正確性の高いデータを収集できることです。自社独自のデータを収集できるので、他社が真似できないかつ顧客のニーズに沿った施策を展開できます。
顧客に直接販売する
D2Cはその名のとおり、第三者を介さずに企業から顧客に直接販売するビジネスモデルです。主にECサイトを販売経路とし、第三者を介さないため手数料が発生しません。BASEのようなASPカートを利用すれば、ECサイトの構築も容易で月々の経費を抑えられます。そのため、低価格で製品を提供しても収益性を保ちやすいという特徴があります。
顧客と直接コミュニケーションを取る
D2CではECサイトやSNSなどを介して製品を販売します。中間業者を設けずに企業が直接、顧客に販売するため、ECサイトの問い合わせをはじめ、DMやオウンドメディア、SNSなどでのコンテンツ発信を通して双方向のコミュニケーションが可能です。
企業側にとっては直接顧客の意見を聞けるためニーズを捉えやすく、顧客側にとっては不満や要望が通りやすいため、双方にとってメリットがあるビジネスモデルです。
LTV(顧客生涯価値)の重要性が高い
LTVとは1人の顧客が企業(ブランド)と関係を持つ間にもたらす総収益のことを言います。直接コミュニケーションを取り、顧客との関係性を確固たるものにし、リピーターを増やすことでLTVを高めるところにD2Cの本質があります。そのため、D2Cではほかのビジネスモデル以上にLTVが重視されます。裏を返せば、LTVが高まらない場合はD2Cを行う意義がないとも言えるでしょう。
コンテンツマーケティングの重要性が高い
コンテンツマーケティングとは、オウンドメディアやSNS、メールマガジンなどで、定期的にコンテンツを発信することで顧客との関係性を育み、購買活動に導く手法です。D2Cの肝となる「顧客との関係性」は一朝一夕で作られるものではありません。購買活動に繋がるほどの優良な関係性を構築するには、定期的なコンテンツ発信による顧客の育成が必要です。
発信するコンテンツは顧客の育成ツールとしてはもちろん、顧客とコミュニケーションを図るための重要な役割を果たすため、D2Cには欠かせない手法です。
独自の世界観を打ち出す必要がある
中間業者が入る従来のビジネスモデルでは、伝言ゲームのようになるため企業が伝えたいブランドイメージやコンセプトが正しく伝わらないことが多々あります。しかし、中間業者を入れないD2Cでは、自社が伝えたいブランドイメージやコンセプトを顧客にダイレクトに届けられるため、正しく伝わることはもちろん、独自性を保ちやすくなります。
主なターゲットはミレニアル世代やZ世代
ミレニアム世代やZ世代はデジタルネイティブ世代と言われており、ほかの世代に比べるとインターネットやSNSを活用し、情報収集したうえで購買行動を取る傾向が強いとされています。また、この世代は個性や価値観を重要視する傾向にあり、従来の大量生産・大量消費とは真逆の消費スタイルを好みます。
D2Cはオンラインが主流であり、またSNSやオウンドメディアなどで直接的にブランドの独自ストーリーを伝搬できます。そのため、ミレニアル世代・Z世代の消費行動に対応しやすいビジネスモデルです。
D2Cのメリット
D2Cを実施するメリットには次のようなものがあります。
- 収益性が高い
- 顧客のニーズを捉えやすい
- 顧客データを収集・蓄積しやすい
- マーケティングの自由度が高い
中間業者が存在しないことで手数料が発生しないうえに、顧客の声を直接吸い上げられるというのがD2Cの最大のメリットです。また、中間業者による制限もないため、マーケティングの自由度が高いのもD2Cの利点として挙げられます。
収益性が高い
D2Cには中間業者が存在しないため、手数料や委託料が発生しません。従来のビジネスモデルに比べて流通コストを抑えられるため、高い収益性を確保できます。
また、顧客との距離が近く、顧客のニーズ吸い上げから反映まで素早く対応可能。類似品が多いなかで、独自性のある付加価値を付けることで競合他社との差別化が図れます。価格以外で差を付けられれば他社よりも高価格帯で販売しても売れる見込みがあるため、利益を上げやすくなります。
顧客のニーズを捉えやすい
D2Cでは直接、顧客とコミュニケーションを図れるため、アンケートなどを容易に行えます。従来のビジネスモデルのように中間業者を介さない分、加工されていない顧客の生の声を聞けるため、ニーズを捉えやすいメリットがあります。
収集した顧客の声を反映して新商品の開発や既存商品の改良を図れば、継続して満足度の高い商品提供が可能。LTVの向上が期待できます。
顧客データを収集・蓄積しやすい
D2Cでは自社でECサイトやSNSを運営するため、第三者を介する場合よりも顧客データの収集・蓄積が容易です。このデータは自社が収集するファーストパーティデータになるので、正確性・信頼性が高く、確度の高い顧客インサイトを導き出せます。
また、欲しいタイミングで欲しいデータを抽出できるため、スピーディーに施策を打てるのもD2Cのメリットの一つです。
マーケティングの自由度が高い
たとえばECサイトをAmazonや楽天などの他社サイト上に出店する場合、実施できるマーケティング施策やキャンペーンに制限が出てきます。しかし、D2Cでは自社ECサイトやSNSを活用するため、自社で対応できることであれば、何でも実施できます。
また、中間業者を入れる場合は施策の要件など、相談が必要なためスピード感がなくなります。一方、D2Cであれば自社完結できるため、タイミングを逃すことなく最適な施策の展開が可能です。
D2Cの注意点
D2Cを実施する際には次の点に注意が必要です。
- 顧客獲得にコストがかかる
- 売上が安定するまで時間がかかる
D2Cは顧客との関係性が軸になるため、成果がでるまでにそれなりのコストと時間がかかります。即効性のある手法ではないため、地道に取り組む姿勢が大切です。
顧客獲得にコストがかかる
魅力的な商品や消費者受けする独自の世界観があったとしても認知してもらえなければ、売上には繋がりません。そのため、SNS運用やWeb広告への出稿などで認知を広げる必要があります。また、ECサイトを構築するにしても顧客の使いやすさを考慮すると、それなりにコストがかかります。
D2Cを行うにはこうした初期費用が発生するため、初期費用をかけても採算が取れるかどうかは事前に試算しておかなければいけません。
売上が安定するまで時間がかかる
D2Cでは認知度を高め、顧客を育成し、購買活動を促すすべての工程を自社で対応します。他社が持つ集客ノウハウには頼れないので、売上が安定するまではある程度の時間がかかることを覚悟しておかなければいけません。
そのため、D2Cでは中長期的な目標設定が重要です。安定的な売上を確保するためには、目標に沿って自社の課題を逐一把握し、絶え間なく最適なマーケティング施策を打ち続ける必要があります。
D2Cを成功させるマーケティングのポイント
前項で紹介した「顧客獲得にコストかかる」と「売上安定まで時間がかかる」という注意点は、下記のようなポイントを抑えた戦略を立てることでその影響を低減させられます。
- D2Cに適したジャンルの商品を選ぶ
- SNSで拡散されやすい商品を扱う
- SNS運用や広告運用を実施する
- ブランドの長期的なファンを作る工夫をする
- 最新のトレンドやユーザーニーズを反映する
まずは新規顧客を取り込むために、SNS運用や広告運用による認知拡大が鍵になります。ただし、ECサイトで売れにくい商品ジャンルを選定してしまうと、認知拡大が図れても売上には繋がりにくいので、商品ジャンルから販売戦略を設計しましょう。
D2Cに適したジャンルの商品を選ぶ
D2Cに適したジャンルの商品には次のようなものがあります。
【D2Cに適した商品ジャンル】
- 健康食品・サプリメント
- 化粧品
- アパレル
- PC・カメラ・オーディオ
- インナー・下着
ポイントは「一定期間で繰り返し購入されるもの」と「ECサイトならではの匿名性」、「自社ECサイトの安心感」です。これにECサイト限定でお得に購入できる特典などを付けることで、ECサイトの利用を促せれば、D2Cを成功に導きやすくなるでしょう。
SNSで拡散されやすい商品を扱う
SNSが発展した現在では、消費者も気軽に発信できるようになっています。そのため、SNSを見ればそこかしこに商品や企業に関する口コミが転がっています。商品を買う際に、SNSの口コミを参考にする人という人は多く、これを利用しない手はありません。
そのため、思わずシェアしたくなる目を引くデザインやかゆいところに手が届く機能などを意識した商品開発が重要です。希少性が高いものは見つけた際に思わず購入・シェアしたくなるので、流通数を限定して販売するのもおすすめです。
SNS運用や広告運用を実施する
インターネットインフラの普及やSNSの発展により、若者を中心にマスメディア離れが加速。反対にインターネット・SNSの利用者は増加傾向にあります。そのため、認知拡大を図り、ファンを獲得するためにはSNS運用や広告運用が欠かせません。両者はそれぞれ特性が異なるため、戦略によって使い分けが必要です。
特性 | |
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広告運用 |
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SNS運用 |
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ブランドの長期的なファンを作る工夫をする
D2Cで重視されるLTVを高めるためには、長期的なファンの創出が欠かせません。そのためSNS運用では商品情報の発信だけに留まらず、積極的にコミュニケーションを図り、ファンの創出に努めましょう。
SNSではコメントやDMはもちろん、アンケート機能を活用して双方向のコミュニケーションを図ることで顧客のファン化を促せます。また、発信内容を工夫し、キャラクターを作り込むことで「○○のなかの人」が話題となり、ファンを獲得するケースも珍しくありません。
最新のトレンドやユーザーニーズを反映する
ファンに継続的に製品を購入してもらうためには、最新トレンドやユーザーニーズを反映した製品開発・改良が欠かせません。顧客の不満が隠されているユーザーニーズを反映することで、顧客から「この企業は分かっている」と思ってもらえます。よりコアなファン化を促すためにも定期的にアンケートなどを実施し、ユーザーニーズを反映した製品開発・改良を行いましょう。
また、最新トレンドを落とし込んだ商品の開発を行うことで、ブランドや企業を知らない消費者を取り込みやすくなります。ただし、トレンドに寄りすぎてしまうと、古参のファン離れが起きるおそれがあるため、既存の定番商品を大事にしつつトレンドを取入れる塩梅を慎重に見極めましょう。
D2Cビジネスの成功事例
D2C(メーカー直販)を実施する企業の成功事例として、自転車事業を手掛ける「株式会社フジモリ様」を以下の記事にて紹介しています。直販を始めたきっかけから、事業におけるメリット・デメリットなどを詳しく紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
メーカー直販の事例を紹介!アウトソースによる変化や課題解決のポイントは?
株式会社フジモリさままとめ
D2Cは従来のビジネスモデルと比べて顧客との距離が近い分、ニーズをくみ取りやすく、優良かつ長期的な関係性を築きやすい特徴があります。しかし、実情としてサプライチェーンのすべてを自社対応できるリソースを持つ企業はそれほど多くないでしょう。
そうした場合には、物流業務のアウトソーシング化により、作業負担を軽減する方法があります。日本郵便の配送サービスでは小ロット・短期間からでも物流業務のアウトソーシング化を承っています。D2Cを導入したいけど、リソース不足で導入を迷っている場合は、お気軽に日本郵便にご相談ください。